"My Pure Lady" Junko Sakurada

新・桜田淳子資料館

週刊朝日 1985.04.26付
『ひと皮むけた桜田淳子のフツーの魅力』より

歌を離れて女優開眼

 百恵、昌子と並んで三人娘といわれた桜田淳子(ニ七)が女優として注目されている。NHKの朝のドラマ「濡つくし」をはじめ、藤竜也と共演した「許せない結婚」(TBS)も好評だった。来月は東京宝塚劇場で「細雪」に出演する。歌を離れて、はじめて自分の場所を見つけたようだ。

 

 都心にある大手企業の玄関なんかには、たいてい、警備の人が立っていて、来た人にすばやい一瞥をくれると同時に、害がないと見てとると、軽い会釈をしたりする。どういうわけか、初老で品のいい感じの人が多い。

 この会釈に対して、そこを通過する人間がどういう応じ方をするか、もちろん千差万別なのは当然だが、通過の仕方ひとつで、その人間の生い立ちや人間性が、かなり分かる。少なくとも血液型判別法よりも的中率が高い。名づけて、「ガードマン面前通過性格識別法」という。心ある人びとの間では、かねてより用いられていた方法である。

 さて、この方法で桜田淳子を分析すると、どうなるか。一応、四つの行動バターンが考えられる。

@無視して通り過ぎる

Aダイアチ王妃のように艶然たる目礼を返す

Bトイレはどこですか、と尋ねる

Cガードマンに気づかないフリをする

などである。

 女優という種族は「私がいちばん、きれい」という自意識の持ち主が多いから、ふつうなら、@もしくはAのパターンに落ち着きそうなものだが、インタビューを終えた感じでは、どうも、どれにもあてはまらないように思う。

背後に漂う秋田純朴ムード

 あえていうと、角度三〇度のお辞儀に対して、彼女はつい四〇度のお辞儀を返してしまう、そういうタイブである。女優特有の自意識の高まりがあまり感じられない。実にふつうの人っぽい。

 しかし、それでは気位の素ともいうべき自意識がないかというと、そうではない。ちゃんと持ち合わせている。ただ、その出方というか、発露の仕方がちょっと違う。

「あたしの美貌は世界一」とか「演技力ではだわにも負けないワ」といったお山の大将的方向ではなく、逆に内側へと沈潜していく。

 これをさきほどの対ガードマン識別法で考えてみると、いっそうわかりやすい。たとえば彼女は@のパターンでいこうと思っても、容易にできない。

 なぜなら、周囲から高慢チキな女だ、と受け取られるのが怖いからだ。ヨソ様の目をヒジョーに気にする。で、その結果が四〇度の礼と相なる。どちらかというと、自意識を専守防衛に向ける人のようである。

 こういうと、要するにブリっ子じゃないかと、思われるムキもあるかもしれない。確かにそうなのだが、彼女の場合、背後に秋田の純朴なムードが漂っていて、どうもブリっ子ということばじゃ納まらない。ま、ここは性格なんだ、ということで、手を打っていただきたい。

 話が自意識から礼儀のあり方へと飛んでしまったので、もう一度、自意識へと戻る。

 この人、芸能人には珍しく、ノリが惑い。といっても仕事のコトではなくて、遊びの分野の話である。

ふっきれて、お肌にも潤い

 つい先日も、レギュラー出演しているNHKの朝ドラ「澪つくし」のスタッフと、ディスコにいかないか、という話になった。沢口靖子嬢などは大のり気で、キャッ、キャッ、はしゃいでいた。ところが淳子嬢はというと、いきたいんだか、いきたくないんだか、いまひとつ、はっきりしない。

聞けば、

「私、ディスコって苦手なんです。ああいうとこって常連がいるでしょ。ドア開けただけで気後れがしちゃう。勇気いりますよ。ああいうの……」

と、おっしゃる。これなどは完全に自意識過剰のせいである。しかも、内省的かつ防衛的な例のヤツである。

 もうひとつ付け加えると、淳子嬢は自意識過剰の王様ともいうベき神経性胃炎と肩凝りを長い間、友としていた。医者が調べても、悪いところはどこもない。なのに、胃がシクシクする。このため体にいいと聞くと、なんでも一応、試してみた。だから、書架にある本のうち三分の二は○○健康法とか、よく効く○○といった類だ。まるで、歩く健康法のような人である。

 もっとも、このところ、胃炎や肩凝りとも嫁が薄くなって、その種の書物の世話になる回数はグンと少なくなった。主食を、ササニシキから玄米に変えたことが良かったのかもんれない。お肌にも張りと潤いがある。

 だが、本当のところは、自分の歩む道がハッキリしたことと密接に関係している。迷いからふっきれたせいといったほうが当たっているかもしれない。

彼女がデビューしたのは、四十七年九月の「スター誕生」だった。十四歳で四代目のチャンピオンになり、二十五ものプロダクションが契約したいと彼女のもとに馳せ参じた。

 「天使も夢見る」でデビュー、その後、「クッククック、私の青い鳥」と歌って、大いにウケた。山口百意、森昌子と並ぶ三人娘の中では抜きんでていた。

ところが、二十歳を過ぎるころから、大人っぽさで売る百恵に先行を許すようになった。本人も認めるように、もともと歌のうまいほうではない。それに歌手としての 位置が、最初はともかく、お年ごろを迎えてからというもの、ちょっと微妙だった。

 ピンク・レディーのように「幼」「少」「青年」がターゲットでもないし、じや、森昌子のようにカラオケ演歌おじさんがお相手かというと、そうでもない。門外漢から見ても、むずかしいキャラクターだった。当然、ヒットも少なくなった。五十四年にはやった「サンタモニカの風」が最後だろうか。本人も、

「ベストテン番組の申でやっていくのは、もうできない。限界がきた」

と思った。ふつうなら、このへんでくじけるところである。だが、よくしたもので、彼女には俳優としての才能があった。五十三年、二十歳のとき、「おはん長右衛門」で長谷川一夫と共演、評論家をして「ウッマイ」といわせた。五十五年には「アニーよ銃をとれ」で主役、翌年、史上最年少で芸術祭優秀賞を受賞。

 が、だからといってこの段階で、女優業に専心しようと心を固めていたわけではない。確かに舞台にいると、アイドル歌手としてステージに立っていたときの、どこか場違いな感じはなかった。けれど、まだ、これだっていう手応えはつかめなかった。

 一昨年だったろうか。松本幸四郎の「ラ・マンチャの男」を見たとき、それこそ突然、目の前が開ける思いがした。劇中、ドン・キホーテが「見果てぬ夢」を歌う。星に達せずとも達する、と。その歌詞に心を打たれた。

「私ね、それまで、お仕事、やめちゃおうと思ったこともあるんです。自分のやってることが世の中のためになんの役にも立っていない。なにしてるのかしらって。でも、辛四郎さんの芝居をみて、舞台で人に感動を与えることができるんだって思い知らされました。私も、同じ仕事をしてるのに、なんだっていままで気がつかなかったんだろうって」

 それが彼女にとって人生の発見ということになるわけだが、それにしても、納得するまでが一苦労だ。まったくもって律義なことである。芸能界にあっては貴重なカタブツといっていい。

 人に問われて、

「女優です」

と、いえるようになったのも、それ以来である。

自分の場所を持てる女優へ

 思い切ってレコードの吹き込みもやめた。と、不思議なことに、あれほど人を悩ませた胃炎も肩凝りも、あっという間にかき消えてしまった。

 こういうタイブは踏ん切りさえつけば、あとはどんどん歩いていく。

 淳子嬢の場合、芝居のカンとか、セリフの間の取り方とか、合いの手の入れ具合とか、天性に属するものをたんと持ち合わせていたから、なおさらである。

最近、放映されたテレビドラマ「許せない結婚」(TBS)や、「季節はずれの蜃気楼」(NHK)で藤竜也、中村敦夫といったところを相手に好演した。単調な明るさだけが取りえだった歌手時代と違って、複雑、屈折、陰影、不透明などといった、大人の昧が出せるようになった。

 プロデューサーたちの評判も、「将来、自分の場所を持てる女優になる」(田代冬彦TBSディレクター)

といった具合に、すこぶるいい。

 だが、これで万々歳かというと、そうはいかない。本人は「芝居をしようとせずに芝居をしたい」とか、「抜いた演技」を標榜しているようだが、そこまでいくにはちょっと間がある。

 子細に観察していると、まだまだ堅い。力が入っている。見ているほうの肩が凝ってくるところがある。おそらく、この感じは本人のしっかり度と生来の生真面目さと関係していると思う。

 そういえば、淳子嬢にはこのところ、とんと浮いた話がない。アイドル時代に、マンションに男が出入りしている、などといったウワサが流れたり、例の「スター交歓図裁判」で証言台に立ったりしたことはあるが、どうもこういったおはなしはウソっぽい。ここは、

「憶病なんでしょうかね、私、人づきあいがうまくないんです」

 という、ご本人の弁をそのまま採用したい。おそらく淳子嬢のようなタイブは、いまはやりの軽い恋愛ができない。いざ恋に落ちるとなると、オモーイ、抜きさしならない恋愛になる。また、その古典的な風を感じきせるところが、キャピキャピ娘を見飽きたおじさんたちにはいいのである。

 身長一六〇センチ、やせぎす。視力、右〇・〇一、左〇・一。ロケ先には手製の弁当を持参する。しいていえばキンビラゴボウが得意。十四日で二十七歳になった。

本誌・柘一郎


※ インターネット用に見やすいように一部編集していることをご了承ください。(管理人)


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